慢性腎臓病(CKD)の早期発見のための2つの検査【血清CrとeGFR】

腎臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、慢性的な腎障害の初期の状態では自覚症状がほとんどありません。

加えて、腎臓というのはある一定以上悪くなると元の状態に戻ることはありません。

ですが、早期に慢性的な腎障害みつけて、適切な治療をおこなえば、腎臓の機能の低下のスピードを遅らせたり、改善(尿タンパクがなくなったり、eGFRの改善)させたりすることができます。

ですので、定期的に検査をおこなって、自身の腎機能を把握しておくことは非常に大切です。

本記事では、定期健診の際などに腎機能を調べることができる一般的な検査項目を紹介します。

1.慢性腎臓病(CKD)とは

慢性腎臓病(CKD)は、2002年にアメリカで提唱された概念で、慢性的に腎臓の働きが低下していく病気の総称のことです。

この慢性腎臓病(CKD)という概念が提唱された理由は、腎臓専門医だけでなく、広く医師全体に腎臓病を認知してもらい、早期発見・治療をおこない、末期腎不全を防ぐためです。

慢性腎臓病(CKD)の定義
(NKFのK/DOQI診療ガイドラインの一つである Chronic Kidney Disease : Evaluation,Classification, and Stratificationによる定義)

  1. 腎障害を示唆する所見(検尿異常、画像異常、血液異常、病理所見など)の存在
  2. GFR(60ml/分/1.73m2)未満

1、2のいずれかまたは両方が3ヵ月以上持続することにより診断されます。

この定義では、GFRが正常でも、蛋白尿が続けば、慢性腎臓病(CKD)と診断されます。

体表面積補正GFRについて

体格が小さいと腎臓のサイズは小さく、GFRは小さめの値になります。
ですので、患者さんごとのGFRを比較するためには、体型を同じと仮定する必要があります。
GFRの単位の1.73m2という数字は、身長170cm、体重63kgの人の体表面積です。
つまり、体表面積補正GFRというのは、身長170cm、体重63kgの人だと仮定して補正したGFRだということです。

この体表面積補正GFRの数値がほぼ腎機能のパーセンテージと考えてもらっていいです。

また、後述しますが、血清Crから簡単に計算できるeGFR(推算糸球体濾過量)は慢性腎臓病(CKD)の重症度分類にも使用されます。

補足:腎障害を示唆する所見とは?
検尿異常 → アルブミン尿、タンパク尿、血尿など
画像異常 → 片腎、多発性嚢胞腎、遊走腎など
血液異常 → BUN上昇、クレアチニン上昇、高K血症、低Ca血症
病理所見 → 腎生検による異常など
補足
慢性腎臓病(CKD)という概念は、専門の腎臓内科医のためというよりも、そのほかの先生に、eGFR(推算糸球体濾過量)で早期に腎障害を発見してもらうための意味合いが強いです。
ちなみに、成人人口の13%にあたる、1330万人が慢性腎臓病(CKD)の状態にあるといわれています。

1.1.慢性腎臓病(CKD)の原因

慢性腎臓病(CKD)とは、慢性的に腎臓の働きが低下していく病気の総称のことですが、原因として主に以下の疾患が挙げられます。

慢性腎臓病(CKD)の原因
  1. 慢性糸球体腎炎
  2. 糖尿病性腎症
  3. 腎硬化症
  4. 多発性嚢胞腎
    など

2.慢性腎臓病(CKD)の早期発見の検査

慢性腎臓病(CKD)の初期にはほとんど自覚症状がありません。

腎機能が正常の50%程度に落ちても自覚症状はほとんどありません。

ちなみに、慢性腎臓病(CKD)の症状としては以下のものがあります。

慢性腎臓病(CKD)の症状
  • 夜間頻尿
  • 尿の泡立ち(時間が経っても消えない泡)
  • むくみ
  • 倦怠感
  • 食欲不振・吐き気
  • 貧血
  • 掻痒感

上記の症状が現れたときには、慢性腎臓病(CKD)がかなり進行している可能性があります。

そのため、定期的に腎臓の検査をきちんとしておくというのが非常に大切になってきます。

2.1.慢性腎臓病(CKD)の早期発見ができる検査

この慢性腎臓病(CKD)の有無をしらべるために簡単な方法が、以下の2つの項目の検査です。

慢性腎臓病(CKD)の早期発見の検査
  1. タンパク尿検査
  2. 血清Cr検査
上記の検査は、人間ドッグや定期健診で普通に検査される項目です。
ただし、血清Crの検査は含まれていないこともあるので注意してください。

CKDの診断および重症度評価には、尿蛋白(もしくは尿アルブミン)と血清Cr値の両者が必要である。多くのCKDは自覚症状を伴わないため、その早期発見には健診における蛋白尿と血清Crの測定が有用である。

引用:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン 2013 p13

2.2.タンパク尿検査

タンパク尿検査とは、尿にタンパク質の量を調べる検査です。

これにより腎臓の糸球体の機能をみることができます。

通常、尿の中にタンパク質はほとんど含まれていません。
ただし、激しい運動や発熱、ストレス、立位によって一過性のタンパク尿がみられることもあります。

しかし、慢性腎臓病の場合、タンパク質が糸球体で濾過されて、尿の中に漏れ出てしまいます。
(ただし、タンパク尿が出ない場合もあるので、後述する血清Crも併せてみることが大切です。)

タンパク尿検査の結果
  • 陰性(-) → 正常
  • +または± → 要注意
  • +2 → 腎臓内科に受診を
補足
糖尿病の人の場合、タンパク尿検査ではなく、微妙アルブミン尿検査を行います。
こちらの検査のほうが、タンパク尿検査に比べて鋭敏で、慢性腎臓病の早期発見をすることができます。
糖尿病性腎症は進行が早いため、早期発見が大切です。
タンパク尿があったときには、具体的に以下の病気が疑われます
タンパク尿の原因
  1. 慢性糸球体腎炎や糖尿病性腎症などの腎臓の病気
  2. 高血圧による腎障害
  3. 膠原病による腎障害

2.3.血清Cr検査

血清Crは尿毒素の代表的な物質で、腎臓が正常であれば尿の中に排出されていきます。

しかし慢性腎臓病(CKD)になると、十分に尿の中にクレアチニンを排出することができず、血清Crは上昇します。

血清Crの基準値

血清Crの正常値は、男性1.2mg/dl以下、女性1.0mg/dl以下です。

ただし、血清Cr値は腎機能以外の影響も受けます。

  1. タンパク質の摂取量が多い、激しい運動、筋肉量増加 → 血清Crは増加傾向に
  2. タンパク質の摂取量が少ない、筋肉量減少 → 血清Crは減少傾向に
基本的に、血清Crが1.0mg/dlを超えていれば、腎機能が悪くなっている可能性があり、要注意です。

一般的に、血清Crが8.0mg/dl以上となると透析導入が検討されます。

2.4.尿タンパクか血清Crのいずれか一方でも異常があれば慢性腎臓病(CKD)です

ここまでで紹介した尿タンパク、あるいは血清Crのいずれか一方でも3ヵ月以上持続すれば慢性腎臓病と診断されます。

健診の結果、タンパク尿があったり、血清Cr値が1.0mg/dl以上の人は要注意です。

3.慢性腎臓病の程度の判定法

腎臓の機能がどの程度低下しているかという目安は、以下の2つの項目により判断できます。

  • 尿タンパクの濃度
  • 血清Crから計算されるeGFR(推算糸球体濾過量)

詳細は省きますが、上記2つを併せてみることで、おおよその慢性腎臓病(CKD)の進行の程度がわかります。

補足
慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の機能を5段階のステージに分けてとらえます。

3.1.eGFR(推算糸球体濾過量)

「血清Cr値」「年齢」「性別」から、eGFR(推算糸球体量)を計算で求めることができます。

eGFR(推算糸球体量)の計算式

eGFR(ml/分/1.73m2) = 194×(血清Cr)-1.094 ×(年齢)-0.287
※ 女性の場合は0.739をかける。
※ 血清Crは酵素法で測定した値を用いる。
※ 18歳以上に適用する。

体表面積補正GFRについて

体格が小さいと腎臓のサイズは小さく、GFRは小さめの値になります。
ですので、患者さんごとのGFRを比較するためには、体型を同じと仮定する必要があります。
GFRの単位の1.73m2という数字は、身長170cm、体重63kgの人の体表面積です。
つまり、体表面積補正GFRというのは、身長170cm、体重63kgの人だと仮定して補正したGFRだということです。

eGFR(推算糸球体濾過量)は、体表面積補正GFRですので、慢性腎臓病(CKD)の重症度分類に使用できます。

通常、検査箋に書かれているeGFRの単位は「mL/min/1.73m2」なっています。

このeGFR(推算糸球体濾過量)の数値が、ほぼ腎機能のパーセンテージと考えてもらっていいです。

eGFRの推算式は簡易式なので、75%の症例で実測GFR±30%の範囲に入る程度の正確度です。

それでは今回は以上です。

慢性腎臓病(CKD)は、専門的な知識がなくとも、2つの検査項目(尿タンパク検査、血清Cr検査)から自身で判断できますので、ぜひチェックしてみくてださい。