透析患者さんの背景で把握するべきポイント

1.糖尿病かどうか

除水により循環血液量が減少すると血圧が低下します。

しかし、以下の代償機構が働いて、なんとか血圧を維持しようとします。

血圧維持のための代償機構
  • 心機能の亢進(心臓の収縮性を高めたり、脈拍を増加させたりすること)
  • 末梢血管の収縮
  • プラズマリフィリング(末梢の組織で水分が間質から血液中に入ってくること)
補足:血圧について
血圧とは、血管壁に与える血液の圧力を示します。
その血圧は、心拍出量(心臓から拍出される血液量)と全末梢血管抵抗(末梢血管での血液の流れにくさ)によってほとんど決まります。
ちなみに、心拍出量は、循環血液量と心機能によって決まります。血管抵抗は、血管が収縮することで上がります。

心収縮力が上がる、心拍数が上がる、末梢血管が収縮する、プラズマリフィリングにより血圧が維持されます。

このとき、糖尿病患者さんの場合では以下の理由により、上記の代償機構が十分に働きません。

  1. 動脈硬化の進行
    (2型糖尿病患者さんで動脈硬化が進行する因子として、①インスリン抵抗性と②食後高血糖が考えられています(1)。)
  2. 心機能の低下
    (糖尿病は冠動脈疾患の重大なリスク要因です。)
  3. 自律神経機能障害
    (神経障害は糖尿病の三大合併症のうちの一つです)。
このため、血圧低下が起こりやすく注意が必要です。

糖尿病とはどんな病気?【本質は血糖値が高いことです】

2018年2月28日

2.心機能はどうか

透析の除水によって循環血液量が減ります。

その結果、1回拍出量が低下して血圧が下がります。

血圧は、心拍出量(心臓から拍出される血液量)と全末梢血管抵抗(末梢血管での血液の流れにくさ)によってほとんど決まります。

ただし、心機能に問題のない患者さんでは、心臓の収縮性を高めたり、脈拍を増加させることによって、トータルの心拍出量が維持され、血圧低下が起こらないような反応が起こります。

しかし、心機能の低下がある患者さんでは、心収縮力が上がる、心拍数があがるといった血圧を維持するための機能が十分に働かず、血圧が下がりやすいです。

だからといってDWを甘めに設定していると、心機能が低下しているため、心不全にも陥りやすいです。

ですので、心機能が低下している患者さんでは、可能な限り低めのDWに設定します。

方針としては、血圧低下のリスクを減らすために1回の透析による除水量を少なくして透析回数を増やすことがもっとも良いです。

しかし、現実的に難しいことが多いですので、透析時間を長くして、時間当たりの除水量を減らすのが妥当かと思います。

場合によっては、エホチールなどの強心薬の投与が必要な場合もあります。

3.虚血性疾患の有無

脳梗塞、心筋梗塞、虚血性腸炎、閉塞性動脈硬化の既往があるかどうか確認してください。

こういった患者さんでは、血圧の下がりすぎに注意してください。

4.脳出血の有無

脳出血の既往のある患者さんでは、再発防止のために血圧は低めにしておく必要があります。