
本記事では、上記の内容をわかりやすくまとめています。
本記事の内容
- 解糖系とはなにかをわかりやすく解説
- 解糖系の役割、材料、場所、反応式について
本記事では、人間の代謝の代表(糖質の中心的な代謝)ともいえる「解糖系」についてわかりやすくまとめています。
目次
解糖系とは

解糖系とは以下のとおりです。
グルコースを分解してエネルギーを取り出し、それをATPの生成に使うための最初の反応系が解糖系である。
引用:生化学―人体の構造と機能〈2〉 (系統看護学講座 専門基礎分野) p174
公益社団法人 日本薬学会の「薬学用語解説」の解糖系のページには以下のように書かれています。
グルコースを分解して、ピルビン酸や乳酸を生成する代謝経路。
(中略)
グルコース以外にもフルクトース、ガラクトース、マンノースやグリセロールも解糖系に回収されて代謝される。
ようするに、グルコース(ブドウ糖)などの単糖をピルビン酸(または乳酸)へと分解し、ATPを生成する過程のことを解糖系といいます。
ただし、ブドウ糖(グルコース)とは少し違った代謝経路をたどります。
フルクトースの代謝については下記の記事でわかりやすく解説しています。
解糖系は上記のとおりなんですが、酸素の有無によって、解糖系の反応の終わりの部分がすこし異なりまして、下記のようになります。
- 酸素が十分にある場合(好気状態(こうきじょうたい))
→解糖系で生成したピルビン酸はクエン酸回路に送られます。 - 酸素が十分にない場合(嫌気状態(けんきじょうたい、無酸素状態のこと))
→解糖系で生成したピルビン酸は、さらに乳酸に分解されます。
これだけだとよくわからないのでもう少し詳しく説明します。
好気状態の場合
好気状態とは、酸素が十分にある状態のことです。
このとき、グルコースはピルビン酸にまで分解され、ATPとNADH+H+がつくられます。
- 1モルのグルコース → 2モルのピルビン酸 + 2モルのATP + 2モルのNADH+H+
2モルのNADH+H+は電子伝達系へと渡されて、ATP合成のために利用されます。
電子伝達系については下記の記事でわかりやすく解説しています。
嫌気状態の場合
嫌気状態とは、酸素が十分にない状態のことです。
このときは、解糖系によってグルコースはピルビン酸に分解され(ここまでは好気状態と同じ)、さらにピルビン酸は乳酸にまで分解されます。
このピルビン酸が乳酸に分解されるときに、ピルビン酸の分解によってつくられたNADH+H+が消費されます。
- 1モルのグルコース → 2モルの乳酸 + 2モルのATP
という感じで、解糖系の最終生成物は『好気状態』と『嫌気状態』で違うので、その点だけは注意してください。
ともあれ、解糖系はATPをつくりだすシステムであることに変わりはありません。
補足:ATPとは

ATPとは、すべての植物・動物・微生物の細胞のなかに存在しているエネルギーが蓄えられている物質のことです。
このATPからわたしたちはエネルギーを得ることで、
- 身体を動かす、心臓を動かす、筋肉を動かす、胃や腸を動かす、息をする、代謝をおこなう
といったことをおこなうことができています。
ここまでの内容のポイント
- 解糖系は、わたしたちが生きていくために必要なエネルギー物質であるATPをつくるためのシステムのことです。
- 解糖系では、1モルのグルコース(ブドウ糖)から2モルのATP、2モルのピルビン酸、2モルのNADH+H+がつくられます(好気状態の場合)。
解糖系の役割
解糖系の役割は主に3つあります。
- エネルギー物質であるATPをつくること
- クエン酸回路に、ピルビン酸を供給すること
- 電子伝達系に、NADH+H+を供給すること
クエン酸回路と電子伝達系というのは、解糖系と同じく、ATPをつくることができるシステムのことです。
解糖系の材料
解糖系でよく使われる材料はグルコース(ブドウ糖)です。

こう思う人もいるかもしれませんが、先ほどにもいったように、ブドウ糖(グルコース)以外にも解糖系で材料として使われる物質があります。
公益社団法人 日本薬学会の「薬学用語解説」の解糖系のページには以下のように書かれています。
グルコースを分解して、ピルビン酸や乳酸を生成する代謝経路。
(中略)
グルコース以外にもフルクトース、ガラクトース、マンノースやグリセロールも解糖系に回収されて代謝される。
上記のように、解糖系は、ブドウ糖(グルコース)以外の糖(フルクトース、ガラクトース、マンノース)や脂肪(グリセロール)も材料として利用でき、ATPという物質をつくることができます。
ただし、ブドウ糖(グルコース)とは少し違った代謝経路をたどります。
以下、グルコース以外で使われる解糖系の材料を紹介します。
果糖(フルクトース)の解糖系による代謝

たとえば、果物に多く含まれている糖として、果糖(フルクトース)が有名ですが、この果糖(フルクトース)も、解糖系の材料として利用できます。
果糖(フルクトース)の代謝は主に肝臓でおこなわれています。
(参考:生化学 人体の構造と機能 2 系統看護学講座 専門基礎分野 / 三輪一智 〔全集・双書〕
具体的には、果糖(フルクトース)は、グリセルアルデヒド-3-リン酸にまで分解されて、解糖系に途中合流します。
詳しくは下記の記事でわかりやすく解説しています。
ガラクトースの解糖系による代謝
ガラクトースは牛乳などの乳製品に含まれている乳糖(ラクトース=ガラクトース+グルコース)を構成する要素です。
ガラスコースの解糖系への合流の流れは、全ての細胞においてガラクトース-1-リン酸→グルコース-1-リン酸→グルコース-6-リン酸という風に変化して、途中から解糖系へと合流していきます。
マンノースの解糖系による代謝
マンノースは、こんにゃくや果実などに多く含まれている単糖です。
マンノースの解糖系への合流の流れは、全ての細胞において、マンノースは、ヘキソキナーゼによってマンノース-6-リン酸に変化し、次にマンノース-6-リン酸イソメラーゼによってフルクトース-6-リン酸に変えられて、解糖系に合流していきます。
中性脂肪の解糖系による代謝

中性脂肪とは、グリセロールに脂肪酸が結合したものです。この中性脂肪が分解することで、グリセリンと脂肪酸にわかれます。
そして、脂肪酸はβ酸化という別の代謝経路で利用されます。
グリセリンは、酵素によってジヒドロキシアセトンリン酸になり、ここから解糖系に入っていきます。
解糖系に酸素は不要です
解糖系では、酸素をまったく必要としません。
これは、大気中に酸素が増える前に生まれた反応経路だからといわれています。
ただし、酸素がない場合では、先ほどにも説明したようにピルビン酸は乳酸へと変えられます。
解糖系をおこなう場所

解糖系は、すべての細胞の細胞質(基質)でおこなわれています。
細胞質(基質)のみでおこなわれるので、ミトコンドリアをもたない赤血球でもおこなうことができます。逆にいえば、赤血球は解糖系のみからしかATPをつくることができないということです。
解糖系の反応式

以降は、解糖系の反応の実際をみていきますが、化学反応にあまり興味のない人は結論だけ知ってもらえればOKです。
解糖系反応の結論は以下のとおりです。
酸素の有無 | 材料 | 生成物 |
---|---|---|
有(好気的条件) | 1モルのグルコース | 2モルのATP、2モルのNADH+H+ 、2モルのピルビン酸 |
無(嫌気的条件) | 1モルのグルコース | 2モルのATP、2モルの乳酸 |
以下が、解糖系の反応式です。反応①~⑩の順に進んでいきます。
反応前 | 反応後 | ||
---|---|---|---|
反応① | グルコース | → | グルコース-6-リン酸 |
反応② | グルコース-6-リン酸 | → | フルクトース-6-リン酸 |
反応③ | フルクトース-6-リン酸 | → | フルクトース-1、6-ビスリン酸 |
反応④ | フルクトース-1、6-ビスリン酸 | → | ジヒドロキシアセトンリン酸+グリセルアルデヒド-3-リン酸 |
反応⑤ | ジヒドロキシアセトンリン酸 | → | グリセルアルデヒド-3-リン酸 |
反応⑥ | グリセルアルデヒド-3-リン酸(2個) | → | 1、3-ビスホスホグリセリン酸(2個) |
反応⑦ | 1、3-ビスホスホグリセリン酸(2個) | → | 3-ホスホグリセリン酸(2個) (ここでATPがつくられます) |
反応⑧ | 3-ホスホグリセリン酸(2個) | → | 2-ホスホグリセリン酸(2個) |
反応⑨ | 2-ホスホグリセリン酸(2個) | → | ホスホエノールピルビン酸(2個) |
反応⑩ | ホスホエノールピルビン酸(2個) | → | ピルビン酸(2個) (ここでATPがつくられます) |
さらに詳しい解糖系の反応式の解説は下記の記事でわかりやすく解説しています。
解糖系の反応のその後・・・
解糖系によって、グルコース(ブドウ糖)はピルビン酸(または乳酸)にまで分解されます。
そして、ここでつくられたピルビン酸は、ミトコンドリアに入っていき、酸素が必要な代謝を受けていきます(→クエン酸回路、電子伝達系)。
酸素が不足している状態、たとえば激しい運動をして、筋肉への酸素供給が不足すると、ピルビン酸は乳酸へと変わり、血中に流れでていきます。その後の乳酸は、糖新生の材料やクエン酸回路の材料に使われます。
まとめ
本記事の内容をまとめます。
解糖系とは、グルコース(ブドウ糖)などの単糖をピルビン酸(または乳酸)へと分解し、ATPを産生するシステムのことです。
この解糖系そのものに酸素は不要ですが、酸素の有無によって最終生成物に違いがあり、
- 酸素が十分にないとき(嫌気状態):ピルビン酸は乳酸に分解されます。
- 酸素が十分にあるとき(好気状態):ピルビン酸はクエン酸回路に送られます。
解糖系の役割は3つあります。
- 役割①:エネルギー物質(ATP)をつくること
- 役割②:クエン酸回路に、ピルビン酸を供給すること
- 役割③:電子伝達系に、NADH+H+を供給すること
解糖系の材料としては、主にグルコース(ブドウ糖)がつかわれます。しかし、それ以外の糖(フルクトース、ガラクトース、マンノース)や脂肪(グリセロール)も材料として利用できます。
解糖系をおこなう場所は、すべての細胞の、細胞質(基質)です。
最後に、解糖系反応の結論をまとめます。
酸素の有無 | 材料 | 生成物 |
---|---|---|
有(好気的条件) | 1モルのグルコース | 2モルのATP、2モルのNADH+H+、2モルのピルビン酸 |
無(嫌気的条件) | 1モルのグルコース | 2モルのATP、2モルの乳酸 |
解糖系は、糖を代謝するための中心的存在で非常に重要です。しかし、現代人は米やパンなどの炭水化物(=糖質)のとりすぎで、解糖系をフル回転で使いすぎています。
解糖系は、糖だけが材料になるわけではなく、いろんなビタミンやミネラルなども必要です。ジャンクフードを中心とした食事をしていると、ビタミンやミネラルがどうしても不足しがちになり、解糖系がうまく回せなくなってエネルギー不足になります。その結果、集中力の低下、疲れやすいといったことの原因になります。
大切なことは、ビタミンやミネラルなどを十分にとることと、解糖系だけに頼らないようにすること(脂肪をエネルギーとする別の代謝システムが実はあります)です。
ということで今回は以上です。