亜鉛は欠乏したところで、ただちに命にかかわるわけでもないので、採血項目にはいっていることは基本的にありません。
しかし、体内の300種以上の酵素の活性にかかわったり、タンパク質の合成に必要だったりと、健康のためには結構重要だったりします。
そこで本記事では、亜鉛とはいったい何なのか?その役割や効果についてわかりやすくまとめてみました。
目次
1.亜鉛(Zn)とは
- 元素記号:Zn
- 原子番号:30
- 原子量:65.38
亜鉛は金属元素の一つで、500円玉の材料にも使われている「金属」です。
そんな亜鉛は、私たちの身体にとってかかせない「必須ミネラル」の一つでもあります。
人間の身体に必要なミネラルは16種類あり、これを必須ミネラルと呼びます。
人体に含まれる量によって、主要ミネラル7種類と微量ミネラル9種類に分けられています。
2.身体の中にある亜鉛の量と分布

亜鉛はすべての細胞内に存在しています。
しかし、その分布と量には偏りがあります。
2.1.亜鉛の量
身体の中にある亜鉛の量は成人(70kg)で1.5~3gです(1)。
2.2.亜鉛の分布
亜鉛が最も多いのは筋肉(60%)で、次に骨(20~30%)、皮膚と毛髪(8%)、肝臓(4~6%)、消化管と膵臓(2.8%)、脾臓(1.6%)という順になります。
残り1%は、腎臓、脳、血液、前立腺、眼などに含まれています(1)。
- 筋肉(60%)
- 骨(20~30%)
- 皮膚と毛髪(8%)
- 肝臓(4~6%)
- 消化間と膵臓(2.8%)
- 脾臓(1.6%)
- その他(腎臓、脳、血液、前立腺、眼)(1%)
ちなみに亜鉛濃度の高い臓器は、肝臓、腎臓、膵臓、前立腺、眼です(1)。
2.2.1.血液中の亜鉛
血液中に含まれる亜鉛の量は、身体全体からしたらごくわずか(1%未満)です。
血液中の亜鉛の分布は以下のとおりです。
- 赤血球(約80%)
- 血清中(約20%)
→主にアルブミンと結合しています。 - 血小板・白血球(約3%)
血清中の亜鉛は主にアルブミン(60~ 80%)と結合しており、少量がα2-マクログロブリンやトランスフェリンと結合しています(1)。
2.3.血清亜鉛の基準値
血清亜鉛:80~130μg/dL
(血清亜鉛は早朝空腹時に測定することが望ましいです。)
日本臨床栄養学会では、血清亜鉛値の適正とされる基準値(正常範囲の目安)を80~130µg/dLとしています。
ただ、血清亜鉛は日内変動があるので必ず採血時間も確認します。
(一般的に血清亜鉛は、午前中高く、午後は低いです。
3.亜鉛の大切な2つの役割
人間の体内には3,000種以上の酵素があるといわれていますが、そのうち300種類以上の酵素の活性化に亜鉛は必要で、細胞分裂などにも重要な役割を果たしています。
さらにタンパク質の合成にも亜鉛は不可欠です(1)。
- 300種類以上の酵素の活性化に必要
- タンパク質の合成に必要
酵素とは触媒です。
(触媒とは、それ自身は変化せず、化学反応のスピードを変化させる物質のことです。)
食べ物の消化の触媒(消化酵素)として、あるいは代謝の触媒(代謝酵素)としての働きをするたんぱく質のことを酵素といいます。
3.1.具体的な亜鉛の効果
亜鉛は、代謝やタンパク質の合成にかかわっていますので、その効果は全身に及びます。
具体的な亜鉛の効果として以下のものがあります。
- 皮膚や髪の健康を維持する
- アレルギーを抑制する
- 成長を促す
- けがや火傷の回復を促す
- 骨を丈夫にする
- 味覚を正常にする
- 脱毛を防ぐ
- 精力増強
- 前立腺障害を防ぐ
- 糖尿病を防ぐ(インスリンの構成成分)
- からだの酸化を防ぐ
特に亜鉛の役割として大切なのは新陳代謝を活発にすることです。
新陳代謝とは、古くなってしまった細胞は分解して排出して、新しい細胞をつくって入れ替えている現象のことです。
そのため亜鉛が不足すると、肌荒れや脱毛、味覚の異常の原因になります。
例えば古い皮膚が剥がれ落ちて新しい肌に生まれ変わる肌のターンオーバー(皮膚の新陳代謝のこと)だったり、古い髪の毛が抜けて新しい髪の毛が生えてきたり、これらすべてが新陳代謝です。この新陳代謝がうまくいってないと、身体に老廃物がたまってしまい、肌荒れや体調不良などの原因になります。
亜鉛は、コラーゲンやケラチンをつくるコラゲナーゼという酵素活性に関与しているため、皮膚と髪の健康にとって大切です。
4.亜鉛が不足すると・・・
亜鉛の欠乏により、味覚異常、皮膚炎、脱毛、貧血、口内炎、男性機能異常、易感染性、骨粗しょう症などを発症します(1)。
亜鉛の不足によりまず出てくるのが皮膚症状(皮膚の乾燥やびらんなど)です。
その他、脱毛、味覚障害(味がわからなくなる、苦みを感じるケースもある)、性機能低下、創傷治癒遅延がよくみられます。
爪に白い斑点がみられるのは亜鉛不足のわかりやすい兆候です。
4.1.亜鉛の不足により味覚異常が起こる理由
味覚は、下の表面にある味蕾という場所で感じます。
この味蕾細胞は新陳代謝が活発です。
亜鉛は新陳代謝にも関わっているため、亜鉛が不足すると新陳代謝が滞り、味覚異常を引き起こします。
実際に、血清亜鉛値が低値で味覚障害による食欲低下を訴えておられる患者さんに、亜鉛製剤(プロマックD錠75)を始めたところ、味覚障害が改善して食欲が戻った例もあります。
4.亜鉛の1日の摂取量
日本人の食事摂取基準(2015年版)によると、亜鉛の1日の推奨量は、成人男性10mg/日、成人女性8mg/日(妊婦は+2mg、授乳婦は+3mg)です。
5.亜鉛サプリ
- 牡蠣:13.2mg(生牡蠣3個(100gあたり))
- 豚レバー6.9mg(100gあたり)
- 牛赤身肉4.9mg(100gあたり)
- ウナギかば焼き2.7mg(100gあたり)
- 納豆1.0mg(1パック50gあたり)
亜鉛はすべての細胞内に含まれているので、肉・魚介・種実・穀類など幅広く含まれています。
しかし、亜鉛含有量の多い食品というのは限られているので、必要量を食事だけでまかなうのは結構きついです。
ただ亜鉛サプリは、鉄などの他のミネラルのサプリと比較して、量による弊害が少ないため、比較的使いやすいです。
現代の日本人で、亜鉛が有り余っていますよという人はほとんどいないので、血清亜鉛に問題がなくても(血清亜鉛が基準値内だから亜鉛が足りているとは限りません)、保険として亜鉛サプリメントを使っておいても問題ありません(亜鉛は300種以上の酵素活性に関わってるので非常に重要です)。
5.1.亜鉛サプリの1日の摂取量
亜鉛は比較的少量(50~75mg/日)で毒性が現れます。
ですので、食事とのバランスを考えて摂取しましょう。
最大30mg/日までは、ほとんどの成人にとって安全だとされています。
5.2.亜鉛サプリ摂取のポイント
もともと、亜鉛の体内への吸収率は高くありません。
しかし、下記の3点によって亜鉛の吸収率を上げることができます。
- 動物性たんぱく質
- クエン酸
- ビタミンC
これらの食品と一緒に亜鉛サプリを摂ると、亜鉛の吸収率が上がります。
牡蠣を食べるときにレモンをかけるというのは非常に合理的だということです。
牡蠣の亜鉛含有量はあらゆる食材のなかでもトップクラスです(牡蠣3個程で10mg程の亜鉛を摂取することができます)。
そして、レモンにはビタミンCとクエン酸が多く含まれています。
最後に
亜鉛を補充することで、髪ツヤが出たり、肌がきれいになったりするといわれています。
しかし現代人のほとんどは、亜鉛摂取量が日本人の食事摂取基準(2015年版)の推奨量にも達していませんので、慢性的な亜鉛不足に陥っています。
また、精神的なストレスによって亜鉛は消費されてしまいまうミネラルですので、現代人にとって特に注意して補充しておきたいミネラルです。
牡蠣が食べられる時期は牡蠣を食べればいいんですが、年中食べられるものでもありませんので、そういう時はサプリを利用しましょう。
それでは今回は以上です。
